大判例

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高松高等裁判所 昭和35年(ネ)90号 判決 1967年8月28日

控訴人

飯田京子

訴訟代理人

小林盛義

山本数樹

被控訴人

中内春義

訴訟代理人

浜口重利

玉置寛太夫

被控訴人

松本悌

訴訟代理人

浜口重利

主文

一、原判決を取消す。

二、控訴人が高知市追手筋字第三南側五一番一、宅地三一一・〇四平方米(九四坪九勺)のうち、別紙第一図面表示斜線部分四七・二七平方米(一四坪三合)を所有することを確認する。

三、被控訴人中内春義は、右宅地より四七・二七平方米(一四坪三合別紙第一図面斜線部分)を分筆する旨の登記申請をなし、右分筆した土地につき控訴人のため所有権移転登記手続をせよ。

四、右分筆した土地につき、被控訴人中内春義は、別紙目録(イ)(ロ)記載、被控訴人松本悌は、同目録(ハ)記載の各登記の抹消登記手続をせよ。

五、控訴人の当審における新請求中その余の部分の請求を却下する。

六、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事   実<省略>

理由

一控訴人の請求原因(一)の事実、並びは昭和二四年一二月二四日従前の土地(高知市追手筋第三南側五一番一の宅地一一八坪九勺)が同所五一番一の宅地九四坪九勺と同所五一番五の宅地二四坪とに分筆され、同日右五一番五の宅地につき、当時の所有者和田健から控訴人のため所有権移転登記がなされたこと、他方右分筆後の五一番一の宅地については、昭和二五年一二月九日和田健から訴外本越浅海に対し、次いで昭和二八年六月二三日右本越から訴外清川利道に対し、さらに昭和二九年一一月二六日右清川から被控訴人中内春義に対し、順次所有権移転登記が経由されていることは、いずれも当事者間に争いがない。

二ところで<証拠>を綜合すると、昭和二四年一一月末頃、控訴人(ただし母である飯田義が代理)と前記和田健との間において、控訴人が和田健より、従前の土地に対する換地予定地七四坪のうち、別紙第二図面表示斜線部分二四坪(東南隅において幅四間、奥行六間)を、現地においてその土地部分を特定した上、代金一五万円で買受ける旨の売買契約を締結し、控訴人は、その頃和田健から右土地部分の引渡しを受けたこと、次いで和田健は、昭和二五年一二月八日訴外本越浅海に対し、換地予定地七四坪のうち控訴人に引渡した右土地部分を除いた残地部分五〇坪を、これもまた、現地においてその土地部分を特定の上、代金五〇万円で売却し、現実にその引渡しをしたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

三思うに、右各売買は、事実上換地予定地を対象としてなされたものであるが、換地予定地に対しては、従前の土地の所有者が、所有権の内容と同じ使用収益をなすことができるとはいえ、換地予定地自体は、所有権の対象となるものでないこと多言を要しないから、事実上換地予定地を対象としてなされた売買も、法律上は従前の土地の売買と解するのが相当である。そして事実上換地予定地の一部を対象としてなされた売買は、格別の事情がない限り、換地予定地における当該土地部分に対応する従前の土地の一部分についてなされたものと見るべきである。

四そうすると、従前の土地一一八坪九勺に対し、換地予定地は七四坪に減歩せられているのであるから、この減歩率に従つて算出すると、右各売買により、控訴人は、従前の土地のうち三八坪三合を、訴外本越浅海は、従前の土地のうち右三八坪三合を除外した残地部分七九坪七合九勺をそれぞれ買受けて、所有権を取得したものといわなければならない。

五しかるところ、<証拠>を綜合すると、控訴人と和田健との間の前記売買において、契約当事者及び仲介人らは、いずれも換地予定地に関する法律上の知識にうとく、控訴人において将来本換地処分の際二四坪の換地を得るためには、前記減歩率から算出して従前の土地のうちから三八坪三合の土地部分を分筆し、その部分につき控訴人のために所有権移転登記をしておくべきであつたにもかかわらず、和田健は、昭和二四年一二月二四日、従前の土地一一八坪九勺を、別紙第一図面表示のように、高知市追手筋字第三南側五一番一の宅地九四坪九勺と同所五一番五の宅地二四坪とに分筆して、同日、右五一番五の宅地についてのみ控訴人のために所有権移転登記を経由したこと、そのため、一方本越浅海は、本来従前の土地のうち、控訴人が既に所有権を取得している三八坪三合を除いた部分すなわち、七九坪七合九勺しか所有権を取得していないのにかかわらず、その所有権移転登記については、昭和二五年一二月九日、右分筆後の五一番一の宅地全部(九四坪九勺)につき和田健より所有権移転登記を受けるに至つたものであることを認めることができ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

六してみると、控訴人は、右五一番五の宅地二四坪について所有権移転登記を受けているに過ぎないが、分筆後の五一番一の宅地九四坪九勺のうち一四坪三合(三八坪三合より二四坪を控除した坪数)の土地部分についてなお所有権を有しているものといわなければならない。そしてその土地部分は、さきに認定した各土地売買及び分筆の状況に照らすと、前記分筆後の五一番一宅地のうち、五一番五の宅地に隣接する部分(別紙第一図面表示⑥⑤⑦⑧⑥の各点を順次結んだ線で囲まれた斜線部分)の一四坪三合がこれに該当するものと見るのが相当である。

七ところで<証拠>を綜合すると、前記本越浅海は、昭和二五年一二月和田健より前記のように、控訴人が買受けた換地予定地二四坪を除いた残地部分五〇坪(換地予定地)を買受け、その引渡しを受けた後(分筆後の五一番一につき、昭和二五年一二月九日所有権移転登記)、控訴人が使用収益している二四坪部分との境界に板塀を作つて、互に使用収益する部分を明らかにして、右五〇坪部分を使用収益して来たが、訴外清川利道から借り受けていた金員の支払いに窮した結果、昭和二八年六月頃自己が使用収益している右換地予定地五〇坪の土地部分を右清川利道に買取つて貰つたこと、右清川は右買受に際し、本越より、隣地(控訴人所有地)との境界(板塀が設けられていた)についての指示を受けるとともに売渡す土地の登記簿上の面積は、九四坪余りであるが、実際に支配できるのは五〇坪強であるとの説明を受けて、右買受土地部分の引渡しを受けたこと(分筆後の土地五一番一につき、昭和二八年六月二三日所有権移転登記)、次いで右清川は、昭和二九年五月訴外志賀清喜、橋本力寿彦、谷田頼子らに対する借受金債務を担保するため、分筆後の五一番一の宅地につき、抵当権を設定し、かつ売買予約を原因とする仮登記をしていたところ、同年六月頃、被控訴人中内春義から金員の融通を受けて、右債務を弁済し、同月二八日右仮登記並びに抵当権(別紙目録(イ)(ロ)参照)は、同被控訴人に移転されたが、右清川は、同被控訴人に対し、担保に差入れる趣旨で右宅地を譲渡したこと(分筆後の五一番一につき、昭和二九年一一月二六日所有権移転登記)、右清川は、被控訴人中内に対し右宅地を譲渡するに際し、同被控訴人に対して、自己が使用収益している土地部分の範囲(前記板塀が境界)を実地につき示すとともに、登記簿上は九四坪九勺であるが、現地は五〇坪強しかないことを説明したこと、以上の事実を認めることができる。<中略>

そうすると、本越浅海が、清川利道に対し、さらに同人が被控訴人中内春義に対し順次譲渡した土地は、換地予定地七四坪のうち控訴人が使用収益している二四坪を除外した残地部分五〇坪(従前の土地において七九坪七合九勺)であることが窺われるが、仮に分筆後の五一番一宅地九四坪九勺につき、本越より清川へ、清川から被控訴人中内へ順次譲渡がなされたとしても、右九四坪九勺のうち一四坪三合については、本越が和田健よりこれを譲受けたものでなく、その所有権を取得するいわれもないこと、前記二ないし四の説示に照らし明らかであるから、清川利道及び被控訴人中内春義もその部分についての所有権を取得するに由ないこというまでもない。

八被控訴人らは、五一番一宅地の分筆につき錯誤があつたとしても、そのことを被控訴人らに対し主張し得ないとか、前記一四坪三合については、控訴人はその登記を経ていないからその所有権取得を被控訴人らに対抗することができないとか主張するけれども、被控訴人中内は、前記一四坪三合については、その所有権を取得する筋合でないこと前記七の説示に照らし明らかであるから、被控訴人らの右主張は採用することができない(不動産につき実質上所有権を有せず、登記簿上所有者として表示されているにすぎない者は、実体上の所有権を取得した者に対して登記の欠缺を主張することができないことにつき、最高裁判所昭和三四年二月一二日判決参照)。

九そうすると、分筆後の五一番一宅地九四坪九勺のうち一四坪三合(四七・二七平方米、別紙第一図面表示斜線部分)は、控訴人の所有に属するものというべきであるから、控訴人が従前の土地三八坪三合について所有権の確認を求める請求中右一四坪三合について所有権を有することの確認を求める部分は理由がある。しかしその余の部分(二四坪)については、控訴人がその所有権を有することにつき、被控訴人らにおいて争つていないから、確認を求める利益を欠き、不適法として却下を免れない。

一〇ところで真正な不動産所有者は、所有権に基づき登記簿上の所有名義人に対し、所有権移転登記を請求することができるものと解するのが相当であるところ(前掲最高裁判所判決参照)、前記一四坪三合は、控訴人の所有に属するにもかかわらず、登記簿上被控訴人中内の所有名義に係る五一番一宅地九四坪九勺の一部であること前認定に照らし明らかであるから、被控訴人中内は、右宅地より別紙第一図面表示のように、一四坪三合を分筆した上控訴人に対し右分筆した土地につき所有権移転登記手続をなすべき義務があるものというべきである。

一一次に分筆後の五一番一宅地九四坪九勺につき、別紙目録記載の各登記がなされていることは、当事者間に争いがないところ、前叙認定判断のとおり、その前記一四坪三合の部分は、当時控訴人の所有に帰していて、抵当権または根抵当権を設定した清川利道の所有に属していなかつたものであるから、右各登記も右一四坪三合の部分については、無効というべきで、この部分につき、被控訴人中内に対し別紙目録記載(イ)(ロ)の登記、被控訴人松本に対し同(ハ)の登記の各抹消を求める控訴人の請求もまた理由がある。

一二よつて控訴人の本訴請求中各登記手続を求める請求をすべて棄却した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三八六条に従いこれを取消し、控訴人の右請求を認容するとともに、当審における新請求(所有権確認請求)を右認定の限度で認容し、その余の部分を却下することとし、訴訟費用の負担につき、同法第九六条、第八九条、第九三条、第九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。(浮田茂男 加藤竜雄 山本 茂)

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